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風姿花伝

572(税込)

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世阿弥
岩波書店
能の世界では、恨みを持って死んでいった女性の怨霊などがよく登場する。言ってみれば、人間の情念のどろどろした部分を題材にしているにもかかわらず、なぜか静謐さを感じさせてしまうところがある。そして同時に、愛や優しさなどの情念もその舞台からは感じにくい。なぜだろうか?もしも恨みや怨念を、そのままストレートに表現してしまえば、ただの復讐劇になってしまう。しかし能の幽玄の世界というのは、別の次元から表現されているのだろう。たぶん、情愛を超えた次元から表現することによって、これまでにない質を表す結果となったのだろう。世阿弥が「能」の奥義を記した『風姿花伝』は、能の奥義にとどまらず、芸を通して世阿弥が到達した日本の霊性の核心を表している。それにしてもこの時代の日本人の精神性には驚くべきものがある。やはり死と隣り合わせの戦乱の世が、日本人の精神世界を結晶化していったのだと思うが、前述の禅や茶道と言い、その極限まで無意味なものを削っていった透徹した精神と美意識は、もともと日本人が霊性として持っている質なのかもしれない。

文庫
判型:文庫判
タテ146mm × ヨコ104mm
126頁
1954年10月25日
ISBN:9784003300114