岩波書店
心あたたまる美しい童話を数多く残している宮沢賢治は、その素朴で美しい物語の世界とは対照的に、己のどろどろした闇の部分を書いた詩「春と修羅」を残している。彼が描く童話の登場人物たちも、心の中に悲しさやさびしさを持っている。仏教者としても知られる賢治であるが、その様に傾倒したのは、自分の中にある闇の部分をどうすればよいかわからなかったからかもしれない。力あるものには裏の世界がある場合が多い。物事には必ず二面性があるからだ。賢治も自己に潜む闇の深さを見つめ続けたからこそ、美しい物語を残せたのではないだろうか。彼の描く美しい世界と闇の世界に、スピリチュアリストとしての賢治の姿が浮かび上がる。日本に残されている昔話も、時として非常に残酷な表情を見せることがある。それは人間という存在の、二つの面を描いているからだろう。昔話はシンプルな構造であるが、人間の本質をすばり描いてみせることが多い。人間の中にうずまくたくさんの欲望や願望が、長い時間をかけて結晶化し、残ったからなのであろう。文庫。
文庫
判型:文庫判
タテ150mm × ヨコ110mm
363頁
1979年1月1日
ISBN:9784003107614