柏書房
1947年に発見された『死海文書』は、20世紀最大の考古学的発見と言われている。それまで直接の資料がなかった紀元後一世紀の事情を伝える原資料であり、神秘のベールに包まれていた古代キリスト教について、従来の説を覆すような内容であったからだ。その中には、当時のキリスト教徒たちの宗教観や祈りの方法、生活などが記されていた。キリスト教は、勢力を拡大していく中で、様々な改ざんが行われたと言われている。現在伝えられている聖書や教えの中には、時の権力者に都合がいいように、大幅に手を加えられてしまったものがあることは以前から知られていた。だから『死海文書』の内容は、今あるキリスト教にとって、まさに異端であり、その公開までには数々の壁が立ちはだかっていたらしい。宗教と言うのは往々にして、教祖が生まれた時代からだんだんと別の顔を持つようになるものだ。それはキリスト教に限らず、仏教やイスラム教などどんな宗教にも見られる運命である。『死海文書』はイエスが生きた時代の本当のキリスト教の姿を垣間みることができる、希有な情報と言えるだろう。
単行本
判型:A5判
タテ204mm × ヨコ148mm
349頁
1995年6月1日
ISBN:9784760108893