監督:ヴィンチェンゾ・ナタリ
製作:ヴィンチェンゾ・ナタリ
ポニーキャニオン
多くの人が、自らのアイデンティティを探し求め、あるいは確立しようと奮闘する現代。自分の内面をみつめていくと、玉葱の皮をむくように、次々と現れる複数の自己がある。その奥に、はたして核となる実体があるのか。それとも、アイデンティティとは、外界との関係性によって築かれた総体なのか。
そんなテーマを逆説的に扱った映画が、この『カンパニー・マン』だ。平凡なサラリーマンが、単調な日々から抜け出すために、ハイテク企業の産業スパイになる。新しい名前、新しい身分、新しい性格。変身する快感が、毎日を刺激的なものに変えてゆく。しかし、実はその陰に、巧妙な罠があった。脳の記憶を操作するハイテク技術は、その人の人生や、身近な関係性までも、塗り替えるのだ。何度でも。
監督は、『CUBE』で世界をあっと言わせた、ヴィンチェンゾ・ナタリ。この作品は、スパイもののエンターテイメントとしても十分に楽しめる作りだが、緻密に計算され尽くされた構成は、さすがである。映画を作るのが本当に好きなんだなあ、ということが伝わってくる。
たとえば、色。モノトーンに近い色で始まる、サラリーマンの日常が、物語が展開するにつれ、そして、驚愕の事実が露わになるにつれ、色めき立ち、果てにはサイケデリックとも言える色彩に変わっていく。まるで、男が見る心象風景に、シンクロしているかのようだ。
アイデンティティの迷路に迷い込み、すべてがカオスとなった時、果たして、最後に残るものは何か? 天才監督が仕掛ける、新感覚のスパイ映画に、ぜひ、翻弄されてみてください。
監督: ヴィンチェンゾ・ナタリ/出演: ジェレミー・ノーザム
2001年/アメリカ/95分
形式:DVD
ジャンル:映画-アメリカ
収録時間:95分
制作国:アメリカ合衆国
2005年7月6日発売