新潮社
ストイックに道を探求するのも素晴らしいが、この人の場合はとことん楽しみながら、自分にしか出来ない仕事を創造しているように見える。『猟師の肉は腐らない』では、世界中の奇食や珍味を食べ歩き、食の冒険家として知られる小泉武夫が、福島の猟師と出会う。過酷な自然との暮らしの中で、現代人がとうに忘れ去った知恵や工夫に打ちのめされる日々。身を持って学んだ食の基本、命の連鎖の記録がここにある。人から賞賛される素晴らしい作品(モノ)を残すことばかりが創造的な仕事とは限らない。人を生み育て、家事や介護をこなすこと。また、日々のルーティン作業をこなし、均一な質を保ち、そこに何らかの楽しみや目標を見出すことも創造行為に違いない。時間や予算など、様々な制約の中で、ついやっつけ仕事をしてしまいそうになったら、その仕事がそれを受け取る人に「あなたは大切な存在で、生きている価値がある」というメッセージを発しているか否かが、一つの試金石になるかもしれない。
ISBN:9784104548040