岩波書店
ブーバーは、ヘルマン・ヘッセをして、「今日、世界に現存する数少ない賢人の一人」と言わしめた思想家だった。ユダヤ人としてドイツで育ち、戦争、ナチズム、イスラエル建国と激動の人生を過ごした。その思想の奥の深さ、中立性、そして現実の活動に対し、絶大な評価を得ながら、なぜか本流からは疎まれる傾向があった。『我と汝』には、ブーバーのエッセンスが抽出されている。特定の宗教や思想についての知識は、むしろ削ぎ落とされている。彼は「私という認識は、それ自体では存在しない」という、驚くべき関係性の神秘を目の前に差し出す。運命と宿命の違い。無限と有限の存在する意味。存在との対峙によってしか知り得ない彼の言葉。生きていくことは、狭い尾根の上を歩く聖なる不安定であると彼は表現している。
文庫
274頁
1979年1月16日
ISBN:9784003365519