講談社
神秘主義的なポジションにいると、哲学的な論考が、妙にまわりくどく感じるようだ。例えば<私>というこの<私>は正確には何を定義するのか、とか・・・。しかし、直観的にわかってしまった< >を、言葉で表現するナンセンスに、最もうんざりしているのがこの著者であることに読者は早く気付くべきだ。直接表現不可能な< >を語るには何らかのトリックを使うほかない。禅の公案と同じである。さて、ここに埴谷雄高という、人類まれにみる奇妙な人間が存在している。哲学では決して< >を表せないと知った氏は、何十年もの間一つの小説を書き続け、多くの人を撹乱し、何かすごいと想わせている。この二人の間にどんな対話が起こるのか。言葉の背後で行き交う< >をあなたはつかまえられるか。
単行本(ソフトカバー)
判型:46変判
236頁
1995年7月7日