松竹
人生の一瞬を愛おしいと思うのは、どんな時だろうか。日々の生活に流されていると、意外にこんな瞬間を持つことがむずかしい。しかし、誰でもこの状態を生み出すことの可能な、チャンスを迎えることがある。それは、自分の「死」を自覚した時である。
23才の若さで、あと2ヶ月の命と宣告されたアンは、失業中の夫ドンと2人の娘がいる平凡な人生を振り返り、「死ぬまでにやりたいこと」リストを作って実行していこうと思い立つ。心の奥に取り残してきた、家族の問題に向きあうこと。やってみたかったものに思い切って挑戦すること。そして、残される家族のために、自分ができる、せいいっぱいの思いやりを残していくこと。
主人公の女性は、低所得者層で子持ち、けっして豊かな生活を送ってきたわけではない。人生に対して持つ望みも、ささやかなものだ。ところが、死という人生の終わりを自覚することで、彼女の生き方が、静かに、力強く変わり始める。
死を目前にしながらも、その事実を誰にも明かさず、すべての現実を自分ひとりで引き受ける。生への執着や、自己憐憫に溺れず、ただ淡々と、自分とまわりの人々に対して、できることを実行していくのだ。その勇気と覚悟、だからこそ生まれる愛おしさが、この作品の静かな空気をひきしめている。
なぜ生きているのか、ではなく、どう生きるのか。それは時間の長短によって限定されるものではない。その瞬間を迎えた時、自分ならどんなリストを作るだろうか。そんなことを思いめぐらさずにはいられない佳作となっている。
収録時間：106分
制作国：カナダ・スペイン
2002年1月1日発売