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チェルノブイリの祈り

1,144(税込)

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未来の物語
スベトラーナ・アレクシェービッチ
岩波書店
1986年の巨大原発事故に遭遇した人々の悲しみと衝撃とは何か.本書は普通の人々が黙してきたことを,被災地での丹念な取材で描く珠玉のドキュメント.汚染地に留まり続ける老婆.酒の力を借りて事故処理作業に従事する男,戦火の故郷を離れて汚染地で暮らす若者.四半世紀後の福島原発事故の渦中に,チェルノブイリの真実が蘇える.


■編集部からのメッセージ
 福島第一原子力発電所の事故は,今も深刻な様相を示しています.放射能汚染についての市民の憂慮も決して弱まっていません.このような時に,かつてのチェルノブイリ原発事故の被災地を丹念に取材した珠玉のノンフィクションをお届けしたいと思います.
 本書の著者アレクシエービッチは,『アフガン帰還兵の証言』などで戦争が民衆をいかに傷つけたかを克明に描き出し,旧ソ連国内で権力からの抑圧や干渉を受けてきた作家です.1997年に刊行された原書も,ベラルーシでの出版は中止されました.
 本書は1986年の大惨事から十年以上経過した時点で刊行された被災者へのインタビュー集ですが,事故直後から公にされた幾多の文献や映像が見落としていたこと,人々が黙していたことを聞き取って,チェルノブイリの真実を描くことに成功した傑出した作品です.

 本書には次のような人たちのインタビューが紹介されています.
 チェルノブイリ原発の四号炉の建屋と原子炉が崩壊した直後に消火に駆けつけ,急死した消防士の妻は亡き夫をどう語ったでしょうか.
 放射能で高度に汚染された地域から退避することを拒否して,カササギやオオカミと共に死んでいくことを選ぼうとしている老農婦.今も行方不明の被災者を捜し続ける女性.そして民族紛争の戦乱の中で故郷を追われてチェルノブイリにたどりついて生活を続ける若者たち.
 護送車で原子炉から至近距離に連れて行かれて,黙々と汚染処理作業に除去した男の物語.ウォッカが放射線に効くからと毎晩酔いつぶれるほど飲みながら,汚染された表土をはぎ取り続けた作業員の日々.汚染地に伝染病がはびこらないようにひたすらペットや野生動物を撃つことを命じられた猟師たちの話.
 隣町プリピャチから原発の火事を,最初はとても美しい光景として見物していた多くの人たち.疎開の準備を始める中でしだいに恐怖感が増していったこと.障害を持って生まれてきた子どもたち.異常な放射能値を示す患者とともに生きる医師.
 上記以外にも,原発の従業員,サマショール(強制疎開の対象になった村に自分の一存で住んでいる人)ジャーナリスト,物理学者,被災者組織の中心メンバー,党幹部などの声も紹介されています.各章の末尾の「合唱」には氏名は記されていないが,各十数人の一言が引用されています.
 「見落とされた歴史について」でアレクシエービッチは,本書がチェルノブイリ事故の概要を伝える本ではないこと,全く未知なる巨大事故に遭遇した人々が何を感じていたか,どんな気持ちでいたかを描こうとしたのだと語っています.そして本書には,「こんな場面はどんな本でも読んだことがない.映画でも見たことがない」という趣旨を語る何人もの人が登場しているのです.
 そしてアレクシエービッチは「私は未来のことを書き記している……」とことばを結んでいるのですが,フクシマの現実に向き合っている私たちにとって何と重たいことばでしょうか.本書のサブタイトルには「未来の物語」と付されているのです.とはいえ,読書の醍醐味を味わっていただける本であることも間違いありません.
 解説をご執筆いただいた広河隆一さんも,ご自身の人生において本書は「もっとも大切な書物のひとつ」だと書かれています.
 本書のご一読を心よりお薦めするものです.


◆追記
 アレクシエービッチさんは2015年ノーベル文学賞を受賞しました.日本語で読める作品は5作ありますが,なかでも本書『チェルノブイリの祈り』 は世界30か国近くで読まれていて,まさに代表作といえます.この機会にどうぞご覧ください.
2015年10月


※出版社サイトより
https://www.iwanami.co.jp/book/b256474.html


文庫
318頁
2011年6月16日
ISBN:9784006032258